Episode14-セーヴォト



 
 手を合わせて向かい合い、セーヴォトの号令に合わせて、足を動かし始める。

 ああ、小さい頃読んだおとぎ話にあったな。王子様とお姫様がこうやって踊る場面。楽団の音楽なんて無いし、観客だっていないけど、あの時の気持ちと一緒。すごくドキドキしてる。

 なんか夢みたい、とか思うなんて、あたしも女の子なんだなぁ……とか照れくさい事を考える。

「ダリア様、お上手ですよ」
 耳元でそう囁かれて、あたしははっと我に返った。慌てて足元を見下ろしステップを確認する。

 よ、良かった、ぼんやりしてたらまた足踏んじゃうとこだった。
 静かな部屋にセーヴォトの涼やかな声だけ響く。本当なら目を合わせて踊るのが 鉄則だけど、妙に照れくさくて、 あたしはセーヴォトの襟元をじっと見つめて いた。

 しばらく踊って、あたしは首を傾げる。
 あれ……結構時間たってるのに、あたしにしては失敗してない。

 もしかしてセーヴォトの言う通り、あたしも少しは成長したのかな。
「ダリア様、リズムを少し落として……」
 指示通り足を動かすと、ぴったりとセーヴォトと呼吸が合う。
 エリスと同じ事を言われてもセーヴォトなら、 素直に聞ける自分に気付き、あたしはようやく納得した。
 ……こう、なんだろ。セーヴォトなら身を任せても大丈夫 っていう安心感があるのよね。エリスとの練習の時は、 いつミスして嫌味を言われるか気が気じゃなくて、そ れだけで身体が固くなっちゃうから。

 それでもステップが不安で、 ついつい下を見てしまうあたしにセーヴォトが苦笑する。
「もう少し私に寄りかかって……そう、いいですよ」

 慌てて顔を上げるとセーヴォトと目が合う。
 あたしを見つめる瞳が――謁見室の時に見た笑顔と被る。
 ……うわ……っ!
 動揺がそのまま足に出た。セーヴォトの号令に大きくずれ、 足を前に出してしまったあたし、体勢が崩れる……っと思ったのも 束の間、セーヴォトがすっと自分の足を後ろに引き、そのまま流れに戻してくれた。
「……」
 ……違う。あたしが成長したんじゃなくて、セーヴォトが上手いんだ。あたしがステップを踏み外しても、素早く自分の足を動かしてそのまま流れに戻してくれる。

 セーヴォトはあたしがミスったなんて一言も言わず、ダンスを続け てくれている。
 エリスもちょっとはこういう心の広さを見習ってくれたらいいのに 、……なんて思うけど、それはやっぱりあたしの我侭だよね。
 うん、こっそり練習して見返せばいいだけの事。

 新たにそう決意して、あたしは練習に集中する。
 誕生式典までになんとかしなきゃ、相手役を務めてくれるセーヴォト にまで恥かかす事になっちゃうし。


   ターンする度にセーヴォトの長い銀髪が揺れて、時々あたしの腕を擽る。 手入れの行き届いてそうな綺麗なその髪に、一瞬見惚れてしまった。
 ……それにしてもセーヴォト上手すぎなんじゃないだろうか。
疑問がそのままま顔に出ていたのだろう、セーヴォトは微かに 微笑んで口を開いた。
「実家で基礎は習っていましたから」
 なるほど、と頷いて納得する。セーヴォトの実家は言わずもがな、 あの魔導師協会だ。会長職は世襲制だし、最近では ルノッケシアのみならず、もっと大国の晩餐会やら 国家行事にも招待される程の実力と地位を持っている。 会長の実弟なんだし、貴族並の……いやもしくはそれ以上の教育を 受けていても当然かもしれない。


「時間ですね」
 セーヴォトがそう呟き、ぴたっと足を止めた。その言葉に あたしははっと我に返る。

 あれ、もう、そんな時間なのか。
 こんなに上手くっていうか長く踊れた事無かったから、 何だか名残惜しい気さえする。まぁそれも情けない話なんだけど。

「駄目ですよ? そんな顔しても。お勉強も大事ですからね」
「もう少し駄目?」
 眼鏡を押し上げたその右手の長い袖をちょっと掴んで 、あたしは問いかける。咄嗟に取ってしまった子供じみた行動に、 少し後悔したけど、もう少し続けたい気持ちの方が勝った。

「……困らせないで下さい、ね」
 縋り付くみたいになってしまったその手を、セーヴォト が優しく握り締める。
 さっきまで繋いでた癖に、ゆっくりと握りこまれて、 あたしの身体が不自然な程強張った。
 ……いやいやいやだって! なんか妙に、手の動きが、 微妙というか、さわさわって撫でるみたいに動いてて……ッ!
 一体誰に言い訳してるんだと、自分で突っ込むあたしの顔は 、ダンスの練習の後だからなんて言葉では誤魔化せないほど 赤くなってるだろう。

 そんなあたしに気付かない訳もなく、セーヴォトは 苦笑してそっと手を離した。
「さぁ、行きましょう。これ以上駄々を捏ねると 抱き上げて部屋まで運びますよ」
 にこり、と笑われて腰の辺りに手を回される。 あながち冗談でも無さそうな口調に、 あたしはブンブンと首を振った。

「え、遠慮します……っ」
 そんなあたしに、セーヴォトはクスリと笑う。
「それは残念。では、これだけで我慢しておきましょう」
 そう言ってセーヴォトは、前髪を片手でかき上げると、 あたしの額に軽い口付けを落とした。






2007.11.30更新




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