Episode15-エリス



 セーヴォトの伝言は、顔見せも兼ねてエリスの実家であるリデア家と女王とあたしで小さな食事会を開く事を知らせるものだった。
 ……と、言ってもエリスの双子のお姉さんはどちらも他国にお嫁さんに行ったから、エリスの母親であるカタリーナ様とその夫でもあり現女王の弟であるリンヅ叔父様との会食になるんだけど。

 しかも昨日の明日……ってつまり今日のお昼、エリスも突然の話に驚いてるようだった。
 その時のエリスの顔を思い浮かべた拍子に、……昨日のやりとりまで思い出してしまって、あたしは一瞬固まってしまう。
「……っ!」
 ああああれは、……うん、セーヴォトが来なかったら、……多分、 キスしてたような気がする……うわ――っ! エリスとだよ、エリス!  何で抵抗しなかったんだろ……、エリスのいつにない真面目な瞳に囚われて 体が思うように動かなくて……ッ!

『つーか、お前が悪い。夜中に男の部屋なんかに来やがって』
 低く掠れた声が、まだ耳の中に残っててゾクゾクする。
 確かに、いくら小さい頃から知ってるからって軽率過ぎた、と思う。
 でも何でかエリスと一緒にいたいって思ったから。

 ……エリスの事、好きなんだなぁ、って改めて思う。今更そんな事を確 信する自分に呆れて、溜め息をつく。
 着替えを手伝ってくれているカナがそれに気づき、 少し眉を潜めて口を開いた。
「ダリア様駄目ですよ? いくらリンヅ様が苦手だからってそ んな顔でお食事なさるのは」

 カナの言葉に、あたしは、え、と呟き顔を上げた。
「違いますの?」
 カナが首を傾げたので、あたしは慌てて頷く。 だって、じゃあ何か、なんて聞かれたら困る。うん、今はそういう事にしといた方がいい。

 ……そういえば、リンヅ叔父様とお会いするのも久し振りだわ。
 カナの言うとおり、あたしは昔から、叔父が苦手だったりする。
 寡黙で何考えてるか分らない上に、いつもその表情は険しくて、怒っ てる気がする。まぁ実の姉である女王に対してもそうだから、 もともと愛想が無い人なんだろうけど……言葉遣いや礼儀がなってない訳じ ゃない。ただあたしを見る視線が、どことなく冷たい気がするのだ。心当 たりも無いし、出来るだけ顔を合わせないようにしてきたけれど、 今回ばかりは仕方ない。

「お支度整いましたでしょうか」
 別の女官が呼びに来たので、カナを連れてあたしは会場に向かった。



「ダリア様、新しいドレス、よくお似合いですわ。エリス様もお喜びになられるでしょうね」
「……そうかな?」
 足早に廊下を進みながらも自分の姿を見下ろし、首を傾げる。うん、セーヴォトならともかく、エリスが 衣装を誉めるなんて事、今まで無かったし想像も出来ない。
 あたしが今身に付けているのは淡い水色のドレスだ。ところどころ細かい 金の刺繍が入っている、それなりに形式ばったもの。
 歩きながら凝った刺繍を指で撫でて、あたしは、ふと顔を上げた。
「もしかして、エリスに合わせた?」
 あたしの言葉にカナは呆れたような溜め息をついた。
「今更気付かれたんですか……」
 淡い水色はエリスの瞳。金の刺繍は言わずもがな髪の色だ。

 ……なんか恥ずかしい気がする……。
 まぁ、でもきっとエリスが気付く訳ないわよね、とあたしは高を括った。

「あれ」
 食事会が開かれる西の離宮の入り口の前。
 あたしは扉の前に立つ人物に気付き、小さく声を上げた。
「ここからエリス様がエスコートして下さるみたいですわね。では私はお部屋で控えております」
 カナはそう言うとエリスに一礼して、元来た道を戻って行く。
 不意打ち……っ
 結局昨日はセーヴォトと一緒に部屋に戻ったから、あれ以来二人で話していない。昨日の事思い出し、鼓動を早めた胸を押さえてゆっくりと歩み寄ると、気付いたらしいエリスが片手を上げた。
「よぅ」
 瞳と同じ青い礼服。示し合わせたみたいにお揃いだった。
「……うん」
 照れくさくて顔が見れない。俯いていると、何故か視線を感じ、顔を上げる。
「……ドレス」
 ぽつりと呟かれた単語にどきりとする。
 まさか、気付いたのかな。
「その……似合って、る」
 無理やり搾り出したような小さな声だったけど、確かにあたしの耳に届いた。
「っ行くぞ」
 すぐに背中を見せたエリスだったけど、耳が赤い。多分すごく照れているんだろう。
 すぐ背中を向けてくれてよかったと、心から思った。
 なぜならあたしも――多分、エリス以上に真っ赤だったから。





2007.9.14更新




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