|
Episode21-ナゼル ![]() 「……向こうも焦ったんだろうな。バレるにしても早過ぎて 逃げ道も作ってない状態だ。計画書なんてものも ご丁寧に用意してたらしいぞ」 ナゼルが行儀悪くソファに しなだれかかって呆れ顔で笑った。 そう、あの報告があった城内は騒然とした。 カリウス家は既に国内に潜伏しており、ナゼルの顔見知りらしい隊長の協力もあって、 表向きは近衛隊の宿舎に密告の封書が投げ入れられ 事件は明るみになったという事になっている。 「……セーヴォトから連絡は無いんだよな?」 ナゼルの瞳が気遣わしげに細められる。 あたしは正直に頷き、どんよりと曇った空を見上げた。 セーヴォトが出て行ってからもう四日が経過していた。 ……というか帰って来ない方がいいのかもしれない。 謀反を企てたカリウス家当主は、今の所黙秘を貫いているけど、 いつ魔導師協会の――セーヴォトの名前が出るか 分からない状況だ。 そうなれはセーヴォトを捕らえなければならなくなる。 本来なら今はナゼルとの稽古の時間だけど、 あたしの体調不良って事で休みにしている。 今日何度目かの溜め息をついた所で、誰かが走ってくるような慌しい足音が聞こえた。 王宮内では珍しいその騒がしさに、 不安になって扉に視線を向けるとノックも無しに勢いよく 扉が開かれた。駆け込んできたのは、 肩で息をしているエリスだった。 「おい、何かあったのか?」 ただならぬエリスの様子にナゼルが立ち上がり、扉 近くに駆け寄る。 喘ぐように二、三回深呼吸を繰り返し、 息が整った所で、エリスは勢いよく叫んだ。 「魔導師協会がラフィークに従属する事が決まった!」 ――え? エリスの言葉が耳から入って頭で理解するよるのに、物凄く 時間が掛かった。それはその場にいたみんなも一緒だったみたいで、 カナなんて今だ呆けた表情でエリスを凝視している。 いち早く復帰したのはナゼルだった。 ひゅうっと軽い口笛を吹き露骨に表情を歪める。 「見事の引き際だな。大国の従属になっちまったら、 こっちからは何も言えない。今回は十年も前のことだしな。 腹探られたくなかったんだろ」 ラフィーク。大陸で一、二を争う鉄 鋼業が盛んな国で好戦的な王が治めるという。ナゼルの言う 通りうちとは比べようの無い程の大国だ。 「……姫さんの婚約者としての立場は弱くなった…… というか不利だな。妙な繋がりで足元見ら れて従属なんて迫られたら、なんてお偉 方共が考えそうな事だしな」 ナゼルの言葉にぎくりと心臓が跳ねる。 完全にセーヴォトとの繋がりが絶たれた 気がして、あたしはただ唇を 噛み締めた。 何を今更――。セーヴォトがこ こに戻ってくる可能性の方が低いのに。 「ちょっと俺暫く留守にするわ。……姫さん、あんまり 考えすぎんなよ?」 暫く黙ったまま難しい顔をしたナゼルは、 そう言うとあたしの側に歩み寄ってきた。 俯いていたあたしの顔を指で持ち上げ、顔を覗き込まれる。 きっと泣きそうな顔でもしていたのだろう。ナゼルは 安心させるように優しく笑って、あたしの耳元に口を寄せた。 「……前の打ち合いで一つ分かった事を教えてやる。セ ーヴォトは失敗したんじゃなくて、止めたんだ。 俺と姫さんを瞬殺出来るくらいの実力はあっ たんだから、失敗なんてするわけない」 セーヴォトは失敗したんじゃない? 「……どうして?」 あたしの疑問にナゼルは少し考え るような間を置いてから、小さく息を吐いた。 「さてな。きっと本人に聞くのが一番だと思うぜ」 ナゼルはあたしの頭を子供に するみたいに撫でて、部屋から出て行った。 2008.2.1更新 |